”A Normal Life , Just Like Walking”

小説書いて、メルマガ出して、文学フリマで売る。そんな同人作家皆原旬のブログ

【既刊再掲】「プログラマ探偵(PG.D)」【第3回】

プログラマ探偵(PG.D)」【第3回】

Day1【後編】

 

来来が堂々巡りをしている頃、

解解は風呂場から部屋の様子をうかがっている。

風呂場に着替えを持ち込んでいないのに、

来来が居座っているからだ。

 

解解は迷っていた。

 

風呂上がりの裸で無防備な女にとってみればどんな男でも

十分怖い。追い出したい。追い出したいが、

自分の出した宿題に取り組む来来(くるき)に

いやな気分で帰ってもらいたくはないのも本心だった。

 

怒鳴ったら帰るだろうか、いや、あり得ない。

 

「そろそろまずいよね~鳥肌たつし」

 

小さくつぶやく

湯冷めした体を湯船で温めなおしながら考え続ける。

給湯のみで追いだきが出来ない風呂ではそれも限界。

限界だった。

 

バスルームのドアが開く音にびっくりして振り向くと、

半開のドアから発射された解解の目線が来来にぱちんと合うと、

 

「風呂出るけど、着るもの忘れたから、あっち向いてなさい」

 

と来来に大声で命じるなり、バスルームから、寝室に駆け込んだ。

慌てて下着を着け、寝間着に愛用しているジャージに着替えて、部屋を出ると、

来来が少し怒っていた。

 

「なんだ、タオル巻いてるならいいじゃない、

恥ずかしがらなくても、ましてや怒鳴らなくても」

 

居座っていたくせにその言いぐさはあんまりだと

言うと解解は来来の向かいの席に座り、でもと話をつなぐ、

 

「あのタオル、子供っぽいから見られたくなかったの」

 

腐れ縁の君であってもね。目線を落とし、少ししんみりする解解。

一方来来はなんだか上の空になっている。

解解の動揺に気づく様子もない。

会話の糸口をつかもうと、解解が、

髪をかき揚げて意味ありげに振る舞っても、

下を向いて黙りこくっている。

 

「どしたの?、悩まなくていいよ、怒ってるわけじゃないから」

 

来来の肩を揺する解解。

 

ぱしっ。

 

解解の手を来来は振り払うと、顔を上げると、

 

「わかった。たぶん。破綻メールのなんたるかではなく、そこにある理由が」

 

「やっとわかったか」

 

解解は心の中で覚悟を決めた。

 

解解(げげ)は、ネットブラウザーのブックマークから、あるサイトのQAコーナーのページを開いて見せた。

本当は来来(くるき)くんが見つけるハズだったんだけどねと言いながら。

 

 

 

 

 

預金保険機構 ウエブサイト http://www.dic.go.jp/qa/qa.html

預金保険制度の解説-制度概要及びQ&A- (一部)

 

 金融機関は、平時から名寄せ等に必要な預金者データを整備し、

破綻の際には預金者データを遅滞なく預金保険機構に提出することが義務付けられています。

この場合に、金融機関が預金保険機構に提出するデータの具体的な様式を定めたものが「機構指定フォーマット」です。

その内容は、預金者の(カナ)氏名、生年月日、住所(法人の場合は(カナ)名称、設立年月日、所在地)、

電話番号、口座番号、預金等の元本及び利息額等の項目で構成されています。

 金融機関の破綻時に、正確なデータが預金保険機構に遅滞なく提出されないと名寄せ等ができず、

迅速な預金者保護が困難になります。

 このほか、金融機関には破綻時に支払対象預金の円滑な払戻し等を行いうるようシステムや手順の整備を

日頃から行っておくことが義務付けられています。

 

 

 

しばらくスクリーンを前に首をひねったり、うなずいたりする来来。

解解を見つめると、

 

「確かにこれが必要な知識ほぼすべてなんだよね。何もわかっていなかったわけだ。納得」

 

「なら、自分の言葉で推理してみなさい。さあ、さあ、さあ」

 

肘鉄を繰り出す解解に、うれしくなりながら、来来は話し始めた。

 

破綻処理メールは送信したプログラムが、最後まで動作したなら作成されるデータは、

高額預金者の一覧になりうるリストだ。これまでの情報持ち出し事件からいっても、これはそれなりに価値があるものと思われる。

破綻処理メールはおそらく、その一覧を作ろうとして誤送信されたもの。

もちろん、銀行には情報持ちだし防止のための決まりやシステムがある。

おそらく、持ち出しをブロックしているシステムの方はくぐり抜けたけど、持ち出した足跡が消せなかった。

足跡がシステム残ったままだと後で追求を受けるから、足跡を消すために、俺たちを雇った。

 

一気に語ると、コップを持って冷蔵庫に駆け寄って、お茶を汲んで一気に飲み干した。

 

「まあ、合格ね。変に落ち着かない点をのぞけば」

 

来来のお茶を受け取るとコップに注ぎ、おりを覗く。

解解は落ち着き払っていた。

 

「それに見解の相違もあるのよね。そして、奇妙な事実」

解解もお茶を飲み干した。

 

つづけて、犯人は誰だと問われて来来(くるき)は

 

「システム部長が、妥当な線じゃないの」

 

浮かない顔をする解解(げげ)に念を入れるように

顔をのぞき込むと、会うのをキャンセルしてるしねと付け加えた。

なんだけど、といいながらテーブルに突っ伏す。

 

「なにか通らないかんじなのよね。土段場でキャンセルしたことが。私は、曜さんに会わさせされたんじゃないかって、思ってる」

 

「何が引っかかってるのかわからないんだけど。予定外の何かがあったんじゃないの、たとえばさ、送別会が長引いたとかさ」

 

解解は、顔を上げて、

 

「言うこと支離滅裂。相手は知能犯罪を犯しているのよ、ちゃんと考えるところだよ。ここは。

彼女は出てこない方が都合がいいはずなの。どんな会社でも役職者より一般社員が圧倒的に多い。

派遣の課長っていないでしょうまず。後で身元照会かけられた役職者はどうせ逃げようがない。

部長が共犯なら彼女は無駄に危険を冒したことになる。

さらに不倫をにおわせていたメールのことを併せて考えると顔を覚えられる可能性が高くなる。

仕事終わりの話題も曜さんだったよね来来君」

 

ああと来来は気のない相づちを打つ。一気に話した解解は、あらためてため息をついた。

 

「わかりやすく言い直すと、一連の行動はあくまでも不倫がらみの話だと印象づけようとしているように見えたということ」

 

「不倫は見せかけと言うことか」

 

「そういうことになる」

 

自分の見方を否定された形になった来来が思わず逆上する。

 

「すべて見せかけっていうのか。じゃあ、何を不倫に見せかけたってんだよ、

そもそも、犯罪を隠せてないのになぜひっかけようとするんだ」

 

両手をあげて解解は来来の勢いを制すると、

 

「ラジオの時間だからちょっと待って」

 

というと、ミニコンポに駆け寄って、しばらく操作すると、

テーブルに戻ってきた。

 

「ネットの再放送って、曲抜きでいまいちだから」

 

とだれとなくいいわけをする解解に、

来来の勢いもさすがに失せてしまったのだだった。

 

あら、しらけたのと言うと、わざとらしくヨイショと言ってテーブルに着くと解解は何もなかったように話をつなぐ。

 

「足跡を消させたことさえ、必要な作業だったのか。と思えるのが曜さんの登場ね。

顔見せしたらメールで第三者に依頼した意味無いじゃーんて。全く混乱させられるわ。

あえて意味付けするなら誤解を招くための雑音が欲しかったんじゃないかってね。思うのよ」

 

少し長く沈黙が流れた。

 

「名簿ってそんなに高く売れたってきいたことないよな」

 

「そうそう、はした金で犯す罪かって思えてならない。こんなに賢いのにって思えて仕方ない」

 

来来の疑問は、解解の難題だった。意見が一致しても、

 

「盗んだ名簿の使い道かあ」

 

行き止まりに行き着いて、何となくお開きとなった。

そして、この謎ときは突如として二人の前に現れるのだが、

それはしばらく後のことでになる。

 

Day1 終了。 

 

翌日ではない「Day2」に続く。