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”A Normal Life , Just Like Walking”

小説書いて、メルマガ出して、文学フリマで売る。そんな同人作家皆原旬のブログ

既刊再掲「最後の観客(Last Audience)」【第4回】

「最後の観客(Last Audience)」【4回目】

 会長はあご髭をなでている。傘もささずに気難しそうな顔をしていた。ちょっと怖かったが、こっちに気づくと、にこっとしてみせる。出て行く前から想像してはいたが、辺りの木は燃えてしまっていた。この状況を見てなお笑ってみせる会長はいや、やっぱり怖い。

「待ちきれなくて来てしまったよ、本当に世話のかかる子だねキミは」

会長が手を伸ばして来て、フィアを受け取ろうとしたが、俺は無視した。

「おや、生意気にも保護者気取りですか。いいのですよ。キミがいいなら。気も立っているようだし。車をまわすから」

俺は黙っていた。というかあっけにとられる展開で言葉もない。

「あと、子どもたちはもう街に送ったよ。一人残らずね。この山は閉鎖したはずなのだけどね、あと、遅れは遅れでなんとかしたから、とりあえずは大丈夫。問題ないから」
「トリエナス先生は残念な事をした。いろいろあってね。本当に残念。車来たから中で話そうか」

乗って来た車よりいくぶんきれいだが地味な車が下から来て、会長の横につく。会長が観音開きのドアを開いたので、フィアを抱え、倒れ込むように車に乗り込んだ。会長は助手席に乗り込む。車は静かに発進した。あっというまに車が峠を越えた。全てがおざなりのままに、俺達は峠を越えた。十年ぶりかの街が小さく見える。峠を越えるまでは今も街はあるのか自信がなかったが、とりあえずまだそこに街はあった。山を下って行く。この辺りに関しては何も覚えていないが、何の事はない林道のようだ。上りに比べると倍は広い道だが、それだけの事に見える。しばらく行くと、車は川沿いに出ていた。気づくと、会長と運転手が、帰ってからの段取りを話し込んでいる。腿の上に頭をのせていたフィアがもそもそと体をよじっている。起きたのかと聞くと、前部座席をみつめたまま、

「いや、まだいい。それよりこれ落ちていた」

と差し出してきたのは先生の日記と手紙だ。

「あれ、落としていたっけなあ。まあ、いっか」

俺が改めて日記を仕舞うと今度は

 

「どの辺りを走っているかわかるか」

と聞いて来た。俺は見たままに

「川沿いの道を川下に下っているようだが、どの辺りかは見当つかない」

そうと答えるとフィアは、

「ヘックショーン、へっく」

とわざとらしいくしゃみ。そして、起きましたかと言って振り向いた会長に、起き上がったフィアは言い放った。

「ママ死んでいるなんてことないでしょうね」


*****

 

会長はうなずくと、運転手に耳打ちをした。車が止められ、会長は俺とフィアを川辺へ誘った。

「さて、何から話したらいいのか」

たいそうなことだ。さっきははぐらかしといて、今度はおおげさに、車を止めて雰囲気を出して
なにを言い出すのやらだね。

「実は、トリエナスさんは、ヤン君を街に呼び寄せる事に反対していました」
「だから、なにか」

フィアはいらだつが、かまう事無く会長は続ける。

「ええ、我々は彼女の説得を試みました。あと少しで”魔術師の解放”が叶うのに、今のままでいいと言い張るのです。そうそう、証を立てるのがヤン君というのも気に入らないとも言っていましたね。さんざんやりあいましたが、埒があかず、結局我々は彼女の声を無視する事にしました。街に住むものの99.9%が賛成する事をやめる事はそうそう出来ませんからね。でも、それがかえってよくなかったようです。どのようないきさつかはわかりませんが、消したはずの入れ墨を入れ直してしまい、その入れ墨が暴走したようです」
「それで、どうなの」

フィアはうつむいたまま言った。

「たぶんですね、ヤン君を説得する気は無かったのでしょうね。とりあえず先ほど試した限りでは、彼女の術は自分はもちろん相手がどうなろうと術を止める事は出来ないものらしく、止める事は出来ませんでした」

まどろっこしさにたまらなくなってフィアは会長につかみかかる。かかるが、喉元には手が届かない。

「だから、ママはどうなったってきいてるのよっ」
「で、結局は、彼女には”プネ”で療養してもらう事にしました。あそこなら周りに何もありませんし、人の出入りも少ないですし」
「それで元に戻るのか、どうなのだ」
「わかりません」

会長は首を振る。今にして思えば、放っておくべきだったかもしれない。けど、黙っていられなくなって俺は、突き放すように言った。

「倒れても仕方ないのじゃないか、先生が追いつめられたかどうかは別にして、無茶をしたんだから、な、それに、あそこなら安心だ。俺の家みたいなものだからな」

「そう。で、会長さん、言いたかったのはそれだけか?」

「ええ、そうです。あと、街の方もいろいろありまして、こちらとしてはあなたに車を用意する事が出来ません。ですから、母上に付き添いたいというのであればそろそろ潮時、街境につく前に飛んでいかれたほうがよろしいのではということです」
「そう。了解。そうするわ。さっさといえばいいのに」

フィアは会長をつかんでいた手を離すと俺の方にすたすたと歩いてきて、胸ぐらをつかんで思いっきり引っ張って来た。不意をつかれてうつ伏せに倒れる俺を踏みつけてフィアは

「あんたには失望した。人の気も知らないで。あんたなんか会長に舐め殺されちゃえばいいのよ。会長のフンめ、礼はあとでまたな」

と叫んだあとに、

「死んじゃ駄目だよ」

そっと小声で言うと、そのまま

「たつまき、かえる」

と詠唱して、あっという間に来た方向へ飛んでいった。起き上がろうと体を起こそうとすると会長が駆け寄って来て手を取って起こしてくれた。

「急ぎましょう。みんな待っていますよ」

そうだ、街は俺を待っているのだ。十年来の約束が俺を待っている。気分が高まってくるのが感じられた。


*****

 

会長の注文で連れて来た子ども達、レン、ケン、ラルーとは、街境の検問所で合流できた。

「大丈夫だったか」

ラオがいた。耳を押さえるそぶりをしながら苦笑いしている。

「おまえこそ大丈夫だったか。ヤン・ファン。こいつらは耳にこたえるな」
「もう戻っていたのか」

と言ってから気づく。山でだいぶ油を売っていたのだっけ。

「俺たちをむかえにきていたのか、ご苦労様でした、てところか」

とちょっとおどけてみせる。

「おうよ、街に戻ったらまだ着いていないっていうから、びっくりしたよ」
「まあ、いろいろあったのさ。それで会長は?」
「ああ、明日の準備に戻ったよ。そもそも会長には、君たちの出迎えになんか本当は出る暇なんてなかったのだ。でも、わたし位しか安心させる事は出来ないだろうって、無理を通したのだ。全く、おまえ、何もわかってないのだから」

「じゃあ、トリエナス先生の事はなんなのだ。それはひどい事になっていたんだよ先生のせいで山は」

ラオは言い返しては来なかった。しばし二人して沈黙。ラオの態度からは、ただ押し殺しているという事しか見て取れず、子ども達にも気まずさが伝わったらしくソワソワし始めた。仕方ないな。といった感じで首を振りながら、ラオがこれからの事を話した。俺が明日、街が作った魔法機械と戦う事、レン、ケン、ラルーはそれを見届ける証人としてこれから俺とは別行動になる事、そして

「お前の相手は俺がする。これでも、街最強の使い手なのだぜ」

 

と言って笑いながら力こぶを作ってみせる。すると子ども達が腕に群がってきた。

「俺は、お前を倒す最後の機会を得て、本当にうれしいのだ。 でも、お前には同情もしているのだ。身内に倒されるなんてな。こちらからすれば”やられ役”の君なのだけど、きっちり倒したいし、一方的に相手の手のうち知っているのはいくら何でも不公平だよな。ちょっと見せてやるよ俺の空かける美脚を」

そういうと検問所から少し離れた城壁の左側の駐車場に連れて来た。整然と止められた車と一緒に停められている引き車に近づくと、荷台の布を取り外した。荷台には鎧らしき金属の人形があった。城によく飾ってある感じで、きれいに磨かれている。

「どうだ、かっこいいだろう」

ラオは、自慢してみせる。俺が鎧なのか魔法機械ってのはと聞くと、

「使い手によるけど、何も考えなくても扱える鎧にするやつは結構多いよ」

 

屈託なく子ども達は早速鎧に駆け寄って、べたべた触っている。

「すべすべして気持ちいーよ」

ラルーがぜひとも触れと手を振っている。子ども達は目にしている魔法機械のために街から追い出されたことを知らされるはずも無いからな。俺は笑顔で手を振り返すが、身動き出来なかった。誰のせいでもない。俺の記憶が全身を縛り付ける。大丈夫かというラオの問いに、大丈夫としか言えなかった。


*****


 対決する魔法機械を見て身がすくむという、敵役としては非常にまずいところを見られて、向こうにとってもまずいことなのは言うまでもなく、結果大事を取らされて俺は晩飯もまだのうちに部屋に押し込まれてしまった。飾り気が全くない殺風景な部屋だ。ベッドと机と椅子が一つずつあるだけ。出入り口には番人のおまけ付き。こんなときは寝てしまおう。ベッドに横になった。

疲れているはずだが、いろいろあったおかげでかえって目が冴えてしまって寝られそうにないおまけに外は昼まで、明日の準備なのだろうか、まだまだ騒がしい。落ち着きたいときに限ってこういうことになる。窓からのぞいてみると柱を組み合わせて、板をはわせている。足場を組んでいるようだ。いや、はわせる板が階段状にずらされている。ははあ、明日の見せ物の特等席作りという訳か。それにしても、遠慮というのがない。杭を打ち込む音に始まり、どうでもいいことでの怒鳴り合い。まったく。昔は…覚えていないが年を取るのが嫌になる感じだ。

なにか耳栓になるものは無いかとまさぐってみると、ドングリがでてきた。耳栓代わりに耳に詰める。それなりに騒がしいのはましになったが、やはり寝られそうにも無いやはり思わずにはいられない。会長に命を救われたときから戦争の道具としてのみ生かされてきた魔術使いの解放のために命を懸けると、約束したこととはとはいえ、魔法機械と戦って(おそらく)死なくてはいけない。もちろん怖い。さらには、勝ちたい振りをしながら死のうと頑張るのは気が重い。

会長に救われた命とはいえ、むちゃくちゃだなあ、全く。ああ、退屈で狂いそうだ。俺は、退屈に負けて先生の日記を改めて読む事にした。日当たりが悪いのでランプを点ける。ランプの火が燃え移るのが怖いので、机で読む事にした。

最初に書かれていたのは魔術事故で生き残った少年の話。少年の父親は戦死しており、母もこの事故で命を落としている。調査全権が現会長に握られていて、一魔術師である先生は少年に近づけないこと。この少年って俺の事か?この生い立ちからするとそんな気もする。しばらく読んでいくと、その後、少年と学校で対面したが、事故に関して何も聞けなかった事が記してある。なんでそんなに話をしたいのだろうか。この日の事は覚えている。この少年は俺だ。これは覚えている。

戦場に行っている会長に出す手紙の書き方をトリエナス先生に習いにいった時の事。あのころ俺は、会長なら全てわかってくれると思い込んでいて、あった事を何でも書こうとして文章にならず、困って相談した。あの時しきりに、魔法機械に触ったかとしきりに聞かれてうんざりしたっけ。確か

「触ったが、だから爆発が起きたという事は無かった」

と答えたように思う。言われてみれば爆発は母がうずくまったあとに起きた。先生に指摘されてそうだと答えていた気がする。その日の日記には

「会長はまたやるかもしれない。そのときに備えなくてはいけなくなるのかもしれない」

この書きぶりだと既にこの頃から会長に不信感を疑っていたのだ。ちょっと謎が解けたし、いい具合に頭が疲れてきたようだ。日記をおいて俺はベッドに再び横になった。

オーイ

耳鳴りがする。ドングリをとってまた着けてみる。ヤン、ヤン、ヤンやーいん?声か?聞こえているなら返事しろーヤン、ヤンうるさいな聞こえてるよしゃべってるの誰だ

「フィアです。ゲロまみれの」

 

返事が返ってきた。本当にどこかからの声らしい。よーくわかったよ。で、なんか用か?

「ああ、間に合った。ほんと良かった」

なにが

「仲直り出来て」

唐突にかつ、勝手なことを言うやつだ、全く。