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”A Normal Life , Just Like Walking”

小説書いて、メルマガ出して、文学フリマで売る。そんな同人作家皆原旬のブログ

既刊再掲「最後の観客(Last Audience)」【2回目】

「最後の観客(Last Audience)」【2回目】

 

見たところ盗賊どもは車を動かせずにいるので騒いでいるようだ。普通の人に乗れない車はとりあえずおいといて、俺は問答無用でガキどもを黙らせて、こっそりと山小屋へ戻った。戻ったが寝ているはずのフィアはいない。盗賊に連れ去られたのだろうか、とりあえずガキどもをおいてきたところへ戻ってみると、車が無くなっているし、レンとラルーが喧嘩をしている。ケンの解説によると、三人が見ている前で、車に群がる盗賊の中にフィアが現れ、その後車は森の中へ消えたのだそうだ。ラルーはさらわれてかわいそうというのに対し、レンはいや、あんなに元気なのはおかしい。うそ病気で安心させといてだまし討ちにしたのだというのでラルーが怒ったのだそうだ。ケンの意見はよく見えないからわからないそうだ。

フィアは盗賊の仲間で、彼女が車を動かしたのだろうか。いや、魔法力は運転するのには必要ない。単なる燃料みたいなもので、乗っている誰かに魔法力があれば十分動く。フィアにかなりの魔法力があるのは乗せたときにわかっていた。後部座席に乗せただけでハンドルが軽くなるほどの魔法力があれば車を盗むのは造作無いはずだ。だが、そこは苦労人のひねくれ者の俺、みすみすかっぱらわれるほど甘くはない。降りるときに車の魔法力倍力器をこの通り外しておいた。街での勉強の成果ってやつさ。これで遠くへ行けるほどの魔法力があるやつそうそういるわけない。

レンのフィア主犯説も、捨てがたいが、とりあえずおいといて、子供連れの俺としては車がないと山を下りられないので、消えた車の後を追うことにする。道がないところを走っているので、追うのは簡単だ。
具合のいいことに街の方へ降りて行ったようだ。車を取り返してまた峠に戻ってくるのは面倒なので、今度 はガキどもも一緒に行くことにした。というより、こいつらやっぱり悪ガキだ。いつの間にか盗賊を一人縛り上げていた。

 

*****


「おらっ、盗賊、なんで、車を取った、下手な芝居うちやがって、フィアはどこだ、バンバン」

レンはフィア主犯と見て責め立てる。もちろん、バンバンは撃つまねだ。早速、問いつめることにした。

「おまえ、なんて名前だ。俺はヤン。こいつらのお供で保護者だ」

なにも答えない。年は8、9歳だろうか、後ろ手には縛ばってある。さっきまでこいつの口を押さえていたケンはいまさら

「汚い」

手を洗いに行ってしまった。車を盗まれたことに頭に血が上って盗賊と呼んでいたが、さっき見た限りではフィアより大きい体格の奴はいなかった。ということは、フィアが頭目といったところかな。

「フィアを待っているのか?なかなか賢明だな。あの子も魔法が使える様だからな」

よくわかっていないようなので、言い直す。

「フィアを待っても無駄だぞ。俺は、最後にして最強の魔法使いだからな」
「おれはリーフだ。ないも知らない」
「ないもねえ。あのゲロ娘はまだかなあ」
「フィアをバカにしたな、うそつき。へなちょこ走り」

半ば逆上して、吠える少年。と思っておこう。へなちょこ走りというのは、小幅な動きで走るところが、見れたものでないということらしい。ここは聞き流そう。ところが、ラルーがこれにかみついた。


*****


「なんだよ、うるさい」

ラルーが殴りかかった。リーフは腕にかみつきながら、ラルーに体当たりで応戦する。この位の子供だと、男女差はともかく、年の差イコール強さだから、ラルーはあっけなく押さえ込まれた。

「あーあー」

ケンが助けにはいり、すぐさま、リーフをラルーから引きはがす。ケンはリーフの首を絞めたのだ。

「おみごとだ、ケン」

俺が褒めると、ケンは、

「いつものことですから」

だって。言うなあこいつ。不意にリーフが走り出した。向かいのしげみから、駆け寄る少女。フィアだ。きたきた、やっときた

「来たわよ。虫けらにも五分のたましい。子供だからって、うちの子をいたぶるのはそこまでね、いたくしてあげるわ」

はったりがびしっと決まっている。結構手慣れているなあ。

「それは、言いがかりというか、やっときたな、頭目ゲロ女」

俺は吠え返す。

「地竜、蹂躙」

フィアはなにも応えず、術を放った。地響き後、土石流が巻き起こりこちらへ向かって来た。導引詠唱なしでの術の発動とは、なかなかキレた才女だな。大技だが、のろい技だから振り切りたいところだ。

「こっちへ来いって」

とっさに呼んだが、3人を呼び寄せるにはこの技はうるさすぎる。駄目だ。

「蟻地獄、捕獲、土蜘蛛、跳躍」

こちらも詠唱。導引詠唱は腕の入れ墨でまかなう。この術の組み合わせなら、みんなを取りこぼさず、振り切れるはずだ。


******

 

俺の術で、ケン、レン、ラルーは吹き飛ばされた。正確には俺めがけて投げ飛ばされたのだが、訳のわかっていない三人は、泣き出していた。

「痛いじゃないか、ぐすん」
「なんなのよ、怖いよー」
「そらとんだ、えーん」

まあ、わめける元気があるなら問題ないだろう。フィアの術は術と一体となる大技だったから、術者の移動距離も長く、やり過ごしてしまえば戻ってくるまでしばらく時間がある。それまでに、フィアを迎え撃つか、車を探すか。決めなくてはならない。いや、この問いの答えは考える言葉もなく、

「フィアととことんやり合う」

しかないと、おれの何かが叫んでいた。術者同士のつながりを欲していたのかもしれない。術をぶつけ合うことに飢えていたのだろうか。でも、ここで逃げれば

「すべてが無為に帰する」

気がしたのだ。向かってくる者にはそれなりの考えがある。痛い目に遭う覚悟をさせる何かが。彼女は怒っているようだが、このまま逃げるとさらにそのこと自体で恨みを買いかねない。では、どうすればいいか…。和解は無理というかこっちにはその理由が無い。追ってくる気を削ぐか、諦めさせるしか無いだろう。どうすればあきらめるか。降参するか。叫び声がするので顔を上げるとケンとラルーが言い争っていた。

「いってえな」

とケンに棒でたたかれたラルーが吠え、そして、

「このなまくらめ」

棒を取り上げる。

「そんなもの」

ラルーが棒をヒザで折った。

「聖剣を折るとはなんと命知らずな」

棒が折れてケンが切れてラルーにつかみかかる。

「知るか。うそつきが」

突き飛ばし返すラルー。

「のろいで、うらみごとしか言えなくなってしまうとはなんとかわいそうな」

さらに強がるラルー

「ばーか、死ね」

ケンは既にべそをかきかけていた。ふと思いついたことがあった。先生が暴れる子供を手懐ける切り札として使った手。これは、俺を尊大な先生と思いこませることが必要だが、役者はちゃんとそろっている。

「もうやめ、やめ、つまらないけんかはやめ。魔術をおしえてやるぞ」
「え、いいや」レンは、思わせぶり、
「やった」ケンはノリノリで、
「見ているだけじゃダメ?」ラルーは及び腰だったが、

そこは節操無くお願いすることにする。

「いや、あの姉さんに負けそうなんだ、たのむよ、ケン、レン、ラルー」
「わかった。いいわ」
「ケンとレンもたのむぞ」

役者たる三人を集め、打ち合わせを始めた。


*****

 

三十分後、俺は一人登山道のど真ん中に立っていた。そこは、峰を伝うまっすぐな道で、前には比較的空の開けた隣の峰への道が見通せる。後ろはこの峰へ続く緑の濃い道で薄暗くなっている。さっき、

「おーい、でてこーい」

と叫んだので、そろそろ、来た。フィアが来た。飛んできた。

「あら、こんなところにいましたのね。探していましたのよ、てっきり逃げたと思いましたが。見つけたわ」
「ああ、そうかい。子供とはぐれてね。探しているのだ。手伝うか、邪魔しないでくれないか。車はその後で取りに行くから、洗車でもしといてくれ」

俺はフィアにつれなくする。あからさまに。すると

「なにさ、バカにしくさって、あれで終わりなんて思ってるなら、甘いわね。つぎ、行くわよ」

食いついてきた。

「次ってなに」
「なにさ、とぼけちゃって。あんただって使うくせに。オールドファッション(古くさい術)を」
「そうじゃなくて、何を使うのかってことさ、このあたりの土は石が多すぎて同じ術は使えないのじゃないのか」

俺はあきらめ悪く叫ぶ。

「ケン、レン、ラルー、どこいったー」

フィアは、無視して話を続ける。

「同じ手でごりおしなんてしないわ。私これでも頭脳派なの」
「そんなら、なぜ、山賊なんてバカ、やっているの」
「それは、これでも一番ましな選択だったからよ」
「そうか。たいへんだねえ」
「ええ。って同情する気?余裕こいちゃって、いいのかしら」
「いいも何も、思ったから言ったまでさ」
「じゃあ、こっちもかってにやらせてもらうわ」

というと、フィアは右の二の腕を撫でた。来たぞ。俺はフィアの後ろに回り込み、次の言葉を待つ。フィアは術に自信が有るのか動じること無く続ける。

「たつまき、」

そこまで言ったフィアを羽交い締めにして、それ以上は言わさないようにする。そして、左手を上げる。飛び出してくるガキ三人。フィアに飛びつき、それぞれに叫ぶ。

「かえる」「かえる」「かえる」

 

最後に俺が、「かえる」と叫ぶ。

風が巻き起こり、フィアの家へ飛ばされた。


*****

 

フィアの家に飛んでいけたのはよかったが、着地がよくなかった。フィアに抱きついていなかったので、どすんと少し離れたところへ飛ばされたところまでは覚えている。その後気を失ったらしい。気がついたときには、後ろ手に縛られていて、何処か暗いところにころがされていた。フィアの家のどこかなのだろう。口には何かが詰まっていて、まともに声が出ない。

「ヴーン、ハゴハホハー」
(意図:あーっ、このひもほどけー)

アゴが痛い。それに、縛っているひもには瘤があるらしく、下になっている側の腰が痛い。まったく、ひどい有り様だ。

「おはようヤン」

後ろから声がした。額が押さえつけられたかと思うと、何かを口から抜き取った。口が自由になったので、文句を言うことにした。

「人を殺す気か、バカが」
「やっぱり、気に入らない」

さっきまで口に入っていた何かを振り上げた。

「うっ」

俺は身構えたが、なにかは、明るい方へ飛んでいった。

「なにやっていんだか、リーフちょっと来い」

フィアは叫ぶと、俺の方に向き直って、小声で、

「折檻してごめんな。もおちょっとぐったりしていて、な」

俺の腹に拳が入った。もったいつけて人を殴りやがって。絶対復讐してやる。俺はまた気絶した。


*****

 

再び、気がつくと夜になっていた。そして俺は、干し草で作った寝床の上にいた。さっきと違って縛られていないし、口も自由だった。もっとも違ったのは、草っぱらのど真ん中だったことだ。

「誰かでてこーい」

周りの森は暗いばかりで誰もでてこないなんだか解放された感じもするが、ケン、レン、ラルーのガキどもを放っていくわけにはいかない。めんどいから、会長に押しつけようかな。山賊を放っておいたのも事実なのだし。しかし、とりあえずは肌寒い。まあ、山のどこかなのだろうから当然か。火でも起こそうかとも思うが、ここは風が強いし、干し草しか燃やす物がない。うかつに火を付けると山火事とかになりそうだ。まずは明かりだ。

「われの名はヤンなり、
 われの命の輝き、
 われの心の熱さ、
 われと引き替えに
 われが願いに応えよ、
 われを守護する立命の星よ、
 照覧あれ」

周りがじんわり明るくなった。久しぶりに使うがいい感じだ。この術は、ものを見る力を強くする。だから、実際には明るくなっていない。よく見えるようになっているだけだ。おい、なんか月がまぶしいな。いや、今って昼間じゃないか?やられた。夜だったのじゃなくて、夜と思いこまされていたのだ。

「おーい、出てこーい」

人を試すようなまね、かと思えば、妙に優しくなったり、この感じは

「トリエナス先生、先生ですか」

とりあえず言ってみる。

「それは、母よ」

フィアの声が後ろから返ってきた。振り向くと、フィアと、三匹のガキがニコニコしていた。訳がわからずいらだった俺は、フィアにつかみかかった。

「悪趣味」
「それは、光栄です」

フィアは平然と応えた。


*****

 

「そのとおり、母の悪趣味でやったわ」

すんなりといわれて、俺はその場にしゃがみ込んだ。トリエナス先生はよく覚えているが、娘がいたとは聞いた覚えがない。

「俺以外大団円って感じだが、気分悪い、めちゃくちゃ悪い。何とか納得なり、宥めるなりしてくれ」

曖昧だが強い怒りを押さえられずどうしようもなくなって、ふてくされる俺。実際、この場の最年長が体育座りでうずくまるなんて、ああ、情けない。

「よしよし、ようやった」

フィアがそういって、抱きついてきた。ほおをすり付けてくる。

「なんだよ」
「おもてなし。お母さんが好きだったおもてなし」

確かに思い当たる記憶が微かにある。なめらかなのは先生と同じだが、さらっとしているのがちがう。だが、とりあえず、恨みみたいなものは収まった。

「ありがとう、気分がよくなったよ。もういいから」

気分が収まると、恥ずかしくなってきたので、フィアをはがそうとした。したが、離れてくれない。

「無理するなって、ひげが痛いだろ。やめろって」
「いや、まだだめ」

なんだかわからないがしつこい。首がしまってきた。

「くるしいって。もう、やめろ」

えいやとフィアを振り解いて立ち上がる。ガキ三人が、おろおろしている。足元を見るとフィアが、小刻みにふるえだしている。これは、泣くぞ。

「だってえ、本気にさせないと、だめだったのだもの」

ああ、泣き出した。俺は為す術なく、しばらく立ちつくした。