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”A Normal Life , Just Like Walking”

小説書いて、メルマガ出して、文学フリマで売る。そんな同人作家皆原旬のブログ

既刊再掲「最後の観客(Last Audience)」【1回目】

「最後の観客(Last  Audience)」【1回目】

 

 昼寝の時間が来たのにガキの誰も寝ない。昼寝当番の昼寝は数少ない役得なのに。指さしのレンなどはおやつが少ないのは昼寝している間に俺が盗み食いしているだから見張るんだと息巻いている。誤解もいいところだ。確かに昼寝の時間に抜け出してはあるがそれは俺が買ったもので、何の関係もない。人が昼ぬきなのを忘れて誤解する。ガキの思いこみにはつきあいきれない。

「とにかく横になって。はいはい」

シン先生が助け船を出してくれた。ガキの頭をなで、おでこを押さえたり、抱いたり、子供の扱いに間違いがない。彼女ならとにかくこの場を納めてくれるだろう。

「はあい、今日もファン先生じゃない、ファンさんが本を読んでくれますよ、読む本は、」
「“大魔術師ルービンの部屋”がいい」

逆さめがねのケン、大魔術師って響きはいいけど、料理本だぞ。魔術といっても味の魔術だからな。

「“いなくなった仲間たち”がいい」

三つ編みのラルーだな、この本は悲しいよな。絶滅した動物の本。泣き虫なのに好きだよな悲しい話が。

「新しいお話がいい。うそ話でいいからさ」

レンか。悪気はないのだろうけど、すぐ勘違いして、大騒ぎして、いつもびっくりさせる。大きくなったらほら吹き男爵にでもなるつもりか。うそ話以外は黒板右側の本棚にある。本棚をのぞいてみる。どれも読んだことがある何がいいかな。うそ話だけは今日はパス。頭が重いんだよ今日は、

「きょうは、」
「うそ話がいい」

こいつらがうるさいのは雨が続くせいだ。外で遊べないから元気で寝付きが悪い。晴れてもこんなにうるさかったら、この世は終わりだ。

「きょうは」 

とファンは声を張り上げた。ひと呼吸したところで、 とりあえず選んだ本を掲げるつもりだった。が、表の戸をたたく音で腰砕けになった。

「はい、どなたですか」

シンさんが表にでていった。まずいな。こいつら玄関にいくきだな。

「はい、なんでもない、なんでもない、

ほら、布団に戻って、お話し始めるぞ」誰もいうことを聞いてない。この園への来客自体が珍しい上に、雨の日の訪問者っていうのは、確かに気になる。期待からから騒いでいる園児に混じって玄関へ向かう。

「うるさいぞ、走らない。」

だれだろうか、なんとなく俺への来客な気がする。頭が痛いけどとりあえず、シンさんが介抱している人をのぞいてみる。雨合羽を着込んでいるから顔は見えないが、男のようだ。

「よお、子守を代わりに来てやったぞ、ファン先生」

当たった、エリートの君じゃないですか。おまけに出会い頭に合い言葉かよ。びっくりしたついでに頭がすっきりしてきた。とにかく合い言葉を返答しなくてはと。

「それは、わざわざ恐縮ですラオ先生。でも、老人のお守りはもうごめんですよ」

とりあえず返答したファンは改めて、ラオの姿を眺めた。怪我や病気ではないようだが、とにかくぐったりといったところだろうか。顔色も悪いし、呼吸も肩でしている。

「まさか、歩いてきたとかいわないよね」

ふとでたつぶやきに

「山賊にも笑われたよ。馬鹿だろうってね。ははは」

これは、とっとと用件を聞き出さなくては。昼寝は当分抜きかなあ。

「シン先生ちょっと、応接室借りたいんだけど、いいかな」

ファンはいつも鍵がかかっているので、掃除してあるかはちょっと心配だったが、二人きりになるにはトイレ以外ではここしかないと、男二人は応接室の鍵をかけたことを確認すると、ラオは用件を切り出した。


*****


 ラオの話は混乱している本部の状況そのままにわかりにくかったが、結局のところ俺に対しての命令は、
いますぐこの園の子供三人を連れて首都にいるゼン前協会会長のところに来いということらしい。俺が首都メダリストに行くことは前からの約束だったからいいとして、この園の子供が必要な理由や、連れていく子供の人選については何もいっていなかったようだったが。かなり大事なことだと思ったから、何度か問いただしたが、ぬかにくぎというかほんとに何も知らないようだ。あんまり、鍵をかけて閉じこもっていると怪しいので、とりあえずは、とっとと連れて行く子供を決めることにして、部屋を出た。ラオが園長の説得をしている間に、おれはガキのスカウトを始めることにした。何せ、明日出発なのだから、急ぐに限る。三時のおやつでみんなが集まる食堂が会場だ。

「みんな、急な話だけど、私は、明日からまちに行くことになった。しばらくは帰れそうにない」

全体がざわめいた。騒ぐ子、固まる子、おやつを眺めている子、窓に目を向ける子とにかくみんなそろって身構えたのがわかった。まちに対する思いは人それぞれだろうが、まちに行く以上まちを怖がらないことは最低条件だ。だけど、それを言い出すときりがない。とはいえ、さすがに里親がいる子を連れて行くのは酷だなと本当に思う。

「魔法協会の偉い人に呼ばれたのだ」

ラオはうまく園長を説き伏せたらしい。入り口の戸のそばで親指を立てている。行けと言うしるしだが、園長は来ていない。

「その偉い人が、君たちのなかから三人をまちに招待したいと言っているのだ。」

今度は静まりかえった。町を出ざるを得なかったこの子らの境遇からすれば意外な反応だ。この危険な誘いに乗ってまちに行くことを真剣に考えているようだ。

「では、行ってもいいなって子は手を挙げて」

全体の三分の一に当たる十五人が手を挙げた。

「では、明日すぐに出発できる人だけそのまま手を挙げて」

これで、七人にまで絞り込んだ。

「はい、ありがとうね。今手を挙げているひとは、夕食が終わってから私の部屋に来てください。誰がまちに行くかはそこで決めます」


*****


とりあえず荷造りをしようと自室に戻ってみると、スカートの泥も落とさないままの園長が待っていた。連れ出す子供について話しがあるという。

「手を挙げていた七人の里親を見つけてきました。どういう意味かわかりますよね」
「・・・」

里親がいると里親の許可無く連れ出せないのはわかっていたから、あの場で確認していたのに。行かせない気なのか。だからといって決め手にはならない。時間稼ぎにしかならないと思うのだが。

「立場上、あまりいえることはないけれど、よく考えてほしいの」

まあ、言わんとすることはわかっているが、こちらの立場ってもんもある。

「一般的な話としてよ、どんな組織でも命令は尊重されなくてはいけない。けど、自分を傷つける行為や身投げに等しい無意味な命令を実行することはないわ。ファンさん」

いや、メダリストで何かが起こっている以上危険だからといってじっとしていられない。世界を才能なんか関係なく魔術に抱かれる変えることを、俺はあそこで夢を見てしまった。身勝手と言われても、子供を巻き込むことをためらう気はない。

「サリー園長、行かせたくないのはわかっています。行くことが最善なのかもわかりません。けど、今一番大事なことは行くべきかどうかを考えることではなく、誰を連れて行くべきか、そこなのです」

「・・・」

サリー園長は少し考えて言った。

「やっぱりそう言うのね。なら、ケン、ラルー、レンを連れて行きなさい。仲もいいしあの子たちならきっと大丈夫」

きっぱりと園長は断言した。当たり前のことのように言ってのけた、遠足とはわけが違うのに。

「園長、あの三人の仲はいいですから一緒に行くのは都合いいでしょう。しかし、反対しておいて、ならって、それだけで決めていいのですか」

少し園長の目が泳ぐ。無理いっちゃったかな。せっかくの提案をご破算というのは避けたい。

「まあ、いいのですが。その辺りは知らなくていい事情ってやつでしょうから」
「ええ、あなたは知らないことだろうけど、三人は、五年前の大火事で親とはぐれた子たちなの。魔力は確かにあったけど、引き取るための口実程度でしかなかった。だいぶおまけして入れたのよ、ここに。」

「だから、だいじょうぶ?」

「ええ、あの町にいっても安全だと思うわ。それに、あの子たちには望みをつないでほしい。あの子たちがあの町に行くことが出来る数少ないチャンスだから」

「わかりました、あなたの提案に従います。申し訳ありません。迷惑をかけます」

「本当は子供達に謝ってほしいけど、今はただ、全員が五体満足のままで戻ってくることを願うわ。もちろんあなたを含めて。ただそれだけよ」

 最後に園長はドングリを俺に手渡すと、深々とお辞儀をして部屋を出ていった。何が待っているにしろ、町に戻ることを望む子供達と行けるのはいい巡り合わせかもしれない。この夜、俺はそんな期待を抱いていた。


*****

 

旅立つ朝は、雨は上がり、空は夜明け前の青さでいっぱいになっていた。さあ出発の段になってラオは持病の腰痛がぶり返したからと言い出した。あからさまな逃げを打ったのだ。俺は、ああだこうだ言うラオに

「ああ、よろしく言っておくよ」

と適当に相づちを打つ。部外者には部外者の扱いでいいのだ。見送りは、メダリスト行きを希望したが行けない四人だけにしてもらった。彼ら全員にドングリを渡してからこう言った。

「ドングリには気持ちが通じた者同士を強くつなぎ止める力があります。ドングリを渡したのはお願いがあるからです。残った子には、行く子達がここへ戻ってこられるように。行けた子には、この園のみんなが、メダリストに戻れるように」

全員がうなずいた。メダリストの都市魔法を暴走させる力のためにいわばここに隔離されている子供達。その力の封印は成人を迎えるまで行うことが出来ない。ゆえに、ここにいること対する思いは複雑だ。けど、単純にこういう団結っていいじゃないかと思えるのは、旅立つものの気ままさかもしれない。園長を含めた五人に別れを告げ、園長に用意してもらった自動車に乗って俺たちはキレナ養正園を出発した。キレナのメインストリートをとっとと通り過ぎる。表通りといっても、砂利敷きの道で、居酒屋と、食料品店が一件ずつあるだけだが。ぼろぼろになるほど歩いたラオには悪いが、メダリストからキレナまでは自動車さえあれば一日の道のりだ。ナナシの山は険しいが、道はちゃんと付いている。今乗っている自動車は、運転者の魔法力で動く古い常識の遺産だ。メダリストには使えるやつはいるわけもなく、使えるやつがいるからと押しつけられた自動車でメダリストに向かっている。おもしろいことになったものだ。もちろん町には誰にでも使える今時の自動車はある。が、都市魔法の危機を伝える伝令たるラオが、その利器を使ってキレナに向かうわけには行かなかったわけだ。ナナシの登山道は多少の水たまりはあるものの、がけくずれもなく、順調に進んでいった。ケン、ラルー、レンは、自動車が初めてだったらしく、はじめははしゃいでいたが、登山道が険しくなり、峠に近くなり霧が出ると、黙り込んでしまった。

「どうした、静かだな、気分でも悪いのか」
「なんにもみえないだもん」
「・・・・トイレ行きたい」
「べつに」

レンを含めてとりあえず、車酔いしたやつはいないようだが、ラルーのトイレはどうするかなあ、

「もうすぐ峠だから、そこで止まって、トイレに行ってから昼にしよう」


*****

 

 馬にはにんじん。遠足には休憩だろう。もうすぐ休憩と聞いて、
思った通り子供達は少し持ち直したようだ。

「先生、昼はなに」
「峠ってどんなところ」
「早くして」

そういえば持たされたお弁当って何が入っているのだろう。聞くの忘れたな。ちょっと気合いを入れ直してさっさと峠に着いて早く昼にしよう。とあくびをした矢先、人が飛び込んできた。もやのせいか車の前にぽっと現れたように見えた。でも、踏み込みが浅かったらしく難なくよけることが出来た。急いではいるが、山で倒れている人を放っておけないので、車を止めて様子を見に行くことにする。倒れていたのは15,6の少女だった。赤いずきんをかぶっていて、かごにはキノコがいっぱいはいいっている。変な格好だが、キノコを採っていて道に迷ったのだろう。

「おい、大丈夫か」

といいながら肩を揺すってみる。返事はない。

「おい」

もう一度揺すってみる。返事はない。息はあるので、気付けに水筒のお茶を飲ませると何かを吐いた。吐くだけ吐くと少女の意識が戻ったが、とにかく弱っているようだ。それにとんでもなく顔色が悪い。土色そのものである。とりあえず、峠の山小屋まで連れて行くことにした。町に連れて行くわけにも行かないが、休めるところまでは連れて行かないとしようがない。峠の山小屋で、弱っている少女にまとわりつくガキ達を引きはがし、話を聞いてみると名前はフィアで、一週間前に小遣い稼ぎのキノコ取りにキレナの山に入ったが道に迷い、空腹のあまり食べたキノコが幻覚を見せる迷いタケだったのが運の尽きで、俺たちに見つけてもらえなければ死んでいたに違いないのだそうだ。胃液まで吐いて食べられないフィアには悪いが俺たちは昼にすることにした。お弁当の中身は、キノコご飯だったりしたあまりにもフィアに悪いので、フィアを小屋に残し、外で食べることにした。岩ばかりの殺風景なところだが、雲が足下に見える景色は最高だ。

「うまいなあこのシメジご飯、なあ」

ガキどもは、俺を無視してシメジに夢中だ。おいしい食事で話が弾むというのは、安い茶葉を売るための茶柱よろしく、さしずめうまくない下宿のまかないに対する方便なのだろうな。弁当を平らげ、走り回りたがるガキどもを引き連れて山小屋へ戻る途中、車を止めたあたりがうるさい。尾根伝いに隠れながらそっと近づいてみると車に人が群がっている。これは盗賊に違いない。フィアもやられたかもしれない。何とか助けないと。